鹿児島で運送会社を経営していると、ある日突然「巡回指導の通知」が届くことがあります。電話で日程を告げられ、FAXで書類リストが届いた瞬間に、「全部そろっているか…」と不安になる経営者の方は少なくないはずです。
実際、巡回指導でチェックされる書類はかなりの量になります。点呼記録や運転者台帳といった基本的なものだけでなく、運行管理・整備管理・労務管理・安全教育といった会社の管理体制全体が対象になるからです。
しかも、評価が低ければ半年ごとに繰り返し指導が入り、改善されなければ運輸支局への報告にまで発展することもあります。それだけに、「何を」「どう準備すればいいか」を日頃から把握しておくことが重要です。
この記事では、運送業専門行政書士の立場から、鹿児島の運送会社が巡回指導に備えるために知っておくべきポイントを、福岡県トラック協会発行の「法令遵守マニュアル簡易自己診断チェックシート」の内容も踏まえながら、できる限りわかりやすく整理しました。
目次
目次
巡回指導とは何か、基本的な仕組みを理解する
巡回指導は、国土交通大臣から認定を受けた「適正化事業実施機関」(各都道府県のトラック協会)が、貨物自動車運送事業者のもとを訪問して行う法令遵守状況の確認です。国の監査(運輸支局による直接の行政処分につながるもの)とは異なりますが、評価が悪ければ監査のきっかけにもなります。
巡回指導の流れは、まず適正化事業実施機関から日程を知らせる電話が入ります。その後、用意しておくべき帳票類を記した書類がFAXで届きます。基本的には、そこに記載されている書類を揃えることが対応の出発点になります。
実施頻度は原則として2年に1回です。ただし、評価がD判定またはE判定だった場合は半年ごとに行われるようになります。さらに、指摘事項が未改善のまま3回連続でD・E判定を受けた事業所については、運輸支局へ報告されることになっています。
「2年に1回だからそれほど心配しなくていい」と思う方もいるかもしれませんが、日頃の書類管理の積み重ねが問われる場でもあります。通知が来てから慌てて準備するのではなく、日常的な管理体制そのものを整えておくことが、何より大切なポイントです。
評価基準(A〜E判定)と事業への影響
巡回指導では、38個の指導項目をもとに実施状況がチェックされ、A〜Eの5段階で総合評価が下されます。評価が高ければそれで終わりですが、D・E判定の場合はその後の事業運営にも直接影響が出てきます。
具体的には、E判定を受けた事業所や、報告・届出義務に違反している事業所は、増車・車庫の拡張・営業所の新設といった事業規模の拡大に関わる認可申請が制限されます(令和元年11月1日施行)。認可申請前3か月以内、または申請日以降にE判定を受けていた場合も同様に制限されます。
また、D・E判定が続けば監査の対象になることもあります。平成30年の改正以降、以下のような事業者は特に重点的に監査が行われるとされています。
- 総合評価が著しく悪い事業者
- 新規参入後も総合評価が継続して悪い事業者
- 健康診断受診や社会保険・労働保険加入といった基本項目が継続して不適切な事業者
逆に言えば、適切な評価を受けることで、Gマーク(安全性優良事業所)認定の取得に向けた土台にもなります。Gマークは荷主からの信頼につながる認定制度ですので、評価を上げることは事業の発展にも直結します。
巡回指導で確認される6つの分野
巡回指導では、大きく分けて以下の6つの分野が確認されます。それぞれに多数のチェック項目があり、関連する帳票類が実際に閲覧されます。
巡回指導で確認される主な分野
- 事業計画等(届出・認可の状況)
- 事故記録・自動車事故報告書・運転者台帳・事業報告書等
- 運行管理等(点呼・乗務記録・タコグラフなど)
- 整備管理等(日常点検・定期点検・整備管理者など)
- 労務管理等(就業規則・36協定・健康診断・社会保険など)
- 輸送の安全管理(安全教育・適性診断・安全マネジメントなど)
単なる書類の有無だけでなく、「実際の運用と一致しているか」も確認されます。たとえば、就業規則は作成してあっても労基署への届出がなければ不備となりますし、点呼記録があっても記載内容が法定項目を満たしていなければ指摘の対象になります。
それぞれの分野について、どのようなポイントが確認されるのかを以下で詳しく見ていきましょう。
事業計画・届出関係のチェックポイント
運送業の許可を受けた内容と、実際の事業の内容が一致しているかどうか、まずここから確認されます。意外に見落としやすいのが、変更の届出です。
営業所の住所・名称、車庫の位置や収容能力、配置車両数、役員の変更などは、変更があった時点で届出や認可申請が必要になります。実態と許可内容が食い違っていると、それだけで指摘事項になります。日常業務が忙しくなると後回しになりがちですが、変更が生じたらすぐに手続きをする習慣をつけておくことが大切です。
また、事業報告書(毎事業年度終了後100日以内)と事業実績報告書(毎年7月10日まで)の提出状況も確認されます。これらが未提出の場合、届出義務違反として事業拡大の認可申請が制限される場合もあります。
さらに、自家用車(白トラ)での有償運送(いわゆる白トラ行為)や名義貸しがないかどうかも確認項目に含まれています。
運行管理で特に重要な書類と確認内容
運行管理の分野は、チェック項目の数が最も多い分野の一つです。特に点呼記録、乗務記録(運転日報)、タコグラフの記録は、毎日積み重なる帳票類ですので、日頃の記録の質が直接問われます。
点呼記録の管理
点呼は、乗務開始前・終了時に行うことが義務付けられています。基本は対面ですが、運行上やむを得ない場合(例:遠隔地での乗務開始など)に限り、電話等での実施が認められています。「車庫と営業所が離れているから」「深夜・早朝に点呼担当者がいないから」という理由は、「やむを得ない場合」には該当しないので注意が必要です。
点呼時には、アルコール検知器の使用による酒気帯びの確認が必須です。さらに平成30年6月以降は、睡眠不足により安全な運転ができないおそれがあるかどうかの確認と記録も義務化されています。点呼記録は3年間の保存が必要です。
なお、補助者が点呼を行う場合は、1か月あたりの点呼総回数の3分の2以内という制限があります。それを超えて補助者に任せることはできません。
乗務記録(運転日報)
法定項目(休憩・睡眠の場所と日時など)が記載された運転日報の作成と、3年間の保存が求められます。
車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の車両では、近年の法改正により記録すべき項目が増えています。荷主の都合で30分以上待機した場合は「荷待ち時間」として、その到着・出発日時と場所を記録しなければなりません。また、積込み・取卸しや附帯業務(荷造り、検品、ラベル貼りなど)を行った場合も、その内容・場所・開始と終了時間の記録が義務化されています。
「荷待ち時間なんてうちは記録してない」というケースは、実務現場では少なくありません。対象車両を持っている会社は、改めて運転日報の様式と記録方法を確認しておきましょう。
運行記録計(タコグラフ)の活用
車両総重量7トン以上または最大積載量4トン以上の車両には、タコグラフ(アナログまたはデジタル)の装着が義務付けられています。記録は3年間保存し、連続運転や速度超過がないかを運行管理者が確認・指導に活用することが求められています。
運行管理者の選任と講習
営業所ごとに、配置車両台数に応じた必要員数の運行管理者を選任・届出する必要があります。また、選任された運行管理者は2年ごとに一般講習を受講する義務があります。新たに選任した場合は、基礎講習の受講歴があることが前提となります。
2泊3日以上の運行(途中で対面点呼ができない場合)については、運行指示書の作成と携行が必要です。運行終了後は回収して1年間保存しなければなりません。
整備管理で求められる点検・記録の管理
車両の安全性を維持するための管理体制も、巡回指導の重要な確認分野です。
整備管理者の選任
5両以上の車両を配置している営業所では、整備管理者の選任と届出が義務付けられています。整備管理者は原則として自社の従業員から選任する必要があります。また、2年ごとに定期研修を受講させる義務があり、新たに選任した場合は選任年度の翌年度末までに受講させなければなりません。
日常点検の実施と記録
日常点検は1日1回、運行開始前に実施することが義務付けられています。法令に基づく「日常点検基準」を作成し、点検結果に基づいて整備管理者が運行可否を判断する体制が必要です。日常点検表は1年間の保存が求められます。
被牽引車(トレーラーの台車部分)についても、日常点検表の作成・保存が必要です。忘れがちなポイントなので確認しておきましょう。
定期点検(3か月・12か月点検)
3か月ごとの定期点検と、12か月ごとの点検が義務付けられています。「定期点検基準」と「定期点検整備実施計画表」を作成し、計画どおりに実施されているかが確認されます。点検整備記録簿は1年間の保存が必要です。
整備管理規程についても、法改正の内容が反映された形で営業所に備え付けてあるかどうかが確認されます。
労務管理でよく指摘されるポイント
労務管理は、「事故と直接関係ないから」と後回しになりやすい分野ですが、巡回指導でも重要なチェック項目です。特に以下の点は指摘を受けやすいので、事前に確認しておくことをおすすめします。
就業規則の作成と届出
常時10人以上の従業員を抱える事業所では、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。法改正(たとえば年5日の有給休暇取得義務化など)があった場合には、変更届を提出する必要もあります。年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存も求められています。
36協定の締結と届出
法定労働時間を超える勤務や休日労働がある場合は、労使で36協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。有効期間(1年以内)が切れた場合は毎年更新が必要ですが、更新を忘れていると無効になりますので注意してください。
健康診断の実施と記録保存
全ての運転者に対し、年1回の定期健康診断の実施と記録の保存が求められます。さらに、深夜業(22時〜5時)に週1回以上または月4回以上従事する運転者については、6か月ごとに1回の健康診断が必要です。夜間運行のあるドライバーについては、この点を忘れないようにしましょう。
社会保険・労働保険への加入
労災保険(全労働者対象)、雇用保険(週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みの方)、健康保険・厚生年金保険への適正な加入状況が確認されます。加入漏れがある場合は、巡回指導で指摘されるだけでなく、ドライバーの採用にも影響するケースがあります。
安全教育・輸送安全マネジメントの確認項目
運転者への指導教育は、年間計画に基づいて計画的に実施することが求められています。また、実施した教育の記録は3年間保存する必要があります。
一般的な指導および監督(12項目教育)
選任された運転者全員に対し、以下の12項目について年1回以上の教育を実施し、その記録を残す必要があります。
指導監督指針に基づく12項目の教育内容
- 事業用自動車を運転する場合の心構え
- 事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項
- 事業用自動車の構造上の特性
- 貨物の正しい積載方法
- 過積載の危険性
- 危険物を運搬する場合に注意すべき事項
- 自動車が故障した場合の措置
- 交通事故が発生した場合における措置
- 運転者の運転適性に応じた安全運転
- 交通事故に関わる運転者の生理的・心理的要因とその対処方法
- 健康管理の重要性
- 安全性の向上を図るための装置を備える事業用自動車の適切な運転方法
初任運転者への特別な指導
新たに採用したドライバーには、乗務を開始する前(やむを得ない場合は開始後1か月以内)に特別な指導を行う必要があります。具体的には、12項目の座学教育を15時間以上、実際にトラックを運転させる実技指導を20時間以上実施しなければなりません。また、指導内容を記録したレポートを3年間保存する義務があります。
これに加えて、新たに採用した運転者の事故歴の確認も必要です。採用時に運転記録証明書などを取り寄せ、過去少なくとも3年間の事故歴(自家用車での事故も含む)を把握することが求められています。
適性診断の受診
以下の対象者には、それぞれ定められた時期に適性診断を受診させることが義務付けられています。
- 初任診断:新たに雇い入れた運転者(直近3年以内に受診経験がある場合を除く)
- 適齢診断:65歳以上の高齢運転者(65歳到達から1年以内に1回、その後3年以内ごとに1回)
- 特定診断:事故を起こした運転者(事故の種類に応じて特定診断Ⅰ・Ⅱが必要)
輸送安全マネジメントの公表
輸送の安全に関する基本方針・目標・計画を定め、社内に周知するとともに、外部(営業所内への掲示またはホームページ)に公表することが求められています。公表すべき内容には、安全方針・安全目標・目標の達成状況のほか、自動車事故報告規則第2条に規定する事故の統計(事故が0件の場合も「0件」と公表)が含まれます。
準備すべき書類の全体一覧
巡回指導当日までに用意しておくべき書類は、大きく「許認可関係」「帳票類」「経理関係」の3種類に分類されます。以下に主な書類を整理しました。
| カテゴリ | 主な書類 |
|---|---|
| 許認可関係 | 経営許可申請書、事業計画変更認可申請書、変更届 |
| 運行管理関係 | 点呼記録簿、乗務記録(運転日報)、運行指示書(2泊3日以上)、運行記録計記録(タコチャート・デジタコ)、運行計画及び乗務割当表、拘束時間管理表、運行管理規程、運行管理者資格者証・研修手帳 |
| 運転者関係 | 運転者台帳(退職後3年保存)、指導教育計画表・実施記録簿(3年保存)、適性診断受診結果表・計画表、運転記録証明書または無事故無違反証明書、事故記録簿(3年保存)、自動車事故報告書(控) |
| 整備管理関係 | 整備管理規程、整備管理者選任届(控)・研修手帳、日常点検表(1年保存)、定期点検整備記録簿(1年保存)、定期点検整備実施計画表、車両台帳(車検証コピー可) |
| 労務管理関係 | 就業規則(労基署届出控)、36協定届(控)、賃金(給与)台帳、出勤簿、健康診断受診記録、雇用保険加入台帳、健保・厚生年金加入台帳、労働保険概算確定保険料申告書 |
| 事業報告関係 | 事業報告書(控)、事業実績報告書(控)、役員変更届 |
| 経理関係 | 総勘定元帳、経費明細簿、現金出納帳、固定資産台帳、リース契約書 |
通知が来てから慌てて集めるのではなく、日頃からこれらを整備・保存しておくことが最も大切です。当日は机の上に並べてすぐに確認できる状態にしておきましょう。
巡回指導対策は会社の経営改善にもつながる
巡回指導の準備と聞くと、「余計な手間が増える」と感じる方もいるかもしれません。でも実際には、書類管理を整えることは会社の管理体制を根本から強化することと同じです。
点呼記録や運転日報がきちんと残っていれば、万が一事故が起きたときの事実確認もスムーズになります。適性診断や健康診断の結果を台帳で管理していれば、ドライバーの健康リスクを早期に把握することにもつながります。就業規則や36協定が整っていれば、労働トラブルを未然に防ぐ効果もあります。
また、Gマーク(安全性優良事業所)認定を取得できれば、荷主からの信頼が高まり、新規の取引にも有利になります。採用市場でもドライバーに選ばれやすくなる効果が期待できます。
一番まずいのは、E判定を受けてそのまま放置してしまうことです。指摘事項が改善されないまま繰り返し指導を受け続けると、運輸支局への報告を経て行政処分につながる可能性もあります。巡回指導の指摘を「改善のチャンス」として前向きに活用するのが、長い目で見ると一番賢い対応です。
まとめ
巡回指導に向けて特別なことをする必要はありません。日常的に書類を整備し、管理体制を整えておくこと、それが全ての基本です。
まず確認すべきは、日々積み重なる以下の書類の状態です。
- 点呼記録(法定事項の記載・3年保存)
- 運転日報(荷待ち時間・荷役作業の記録を含む)
- 運転者台帳(パート・派遣も含む全ドライバー)
- 指導教育記録(12項目・年1回・3年保存)
- 日常点検表・定期点検整備記録簿
これらが日常的に適切に記録・保存されていれば、巡回指導が来ても慌てることはありません。
一方で、就業規則や36協定、適性診断の計画管理など、日々の業務の中で後回しになりやすいものもあります。一つひとつ確認して、できるところから整えていくことが大切です。
書類管理が整っている会社ほど、巡回指導にも落ち着いて対応できます。そして、その落ち着きこそが、会社全体の安全管理体制の充実を示す証でもあります。
運送業専門行政書士にご相談ください
「何から手をつければいいかわからない」「書類の整備方法が不安」という方は、運送業専門の行政書士に相談するのも一つの方法です。必要書類のチェック、帳票の整備サポート、巡回指導対策から運送業許可関係の手続きまで、幅広くサポートすることができます。
鹿児島で運送会社を経営されている方で、書類管理や巡回指導への備えに不安がある場合は、お気軽にご相談ください。

